私が心臓外科病棟にいたのは10年も前になる
10年も経てば医療は進化する
今回は、医療の進歩を実感した体験を少し
大動脈瘤は部位により胸部大動脈瘤あるいは腹部大動脈瘤と呼ばれ、治療法としては、人工血管置換術もしくはステントグラフト内挿術(血管内治療)がある。
ステントグラフト内挿術は、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤に対して、その当時より広く用いられてきた手術方法。
胸部であればTEVAR(thoracic endovascular aortic repair)
腹部であればEVAR(endovascular aortic repair)
動脈瘤自体はなくならないが、ステントグラフトを留置することにより動脈瘤内への血液流入を防ぐことで動脈瘤の破裂を防ぐことができる。
人工血管置換術との違いは、
人工心肺を用いる人工血管置換術と比較し、ステントグラフトは大腿動脈を切開・縫合するだけで挿入が可能。
『侵襲度』が全然違う!
侵襲度が違うと、
高齢者や併存疾患により従来の開胸もしくは開腹による人工血管置換術が困難な場合でも施術が可能となり、救える患者さんが増える。
入院日数も1週間程度で、術翌日から歩行可能・食事摂取可能となる。
ただし、動脈瘤の位置および周囲の血管性状によりステントグラフトが挿入できない場合がある。
特に、腕頭動脈、総頸動脈、鎖骨下動脈が分岐している弓部大動脈瘤には、主要3本の血管を含めた全血管置換術(上行・弓部大動脈置換術(total arch replacement))
が用いられてきた。
ここで医療の進歩
そんなやっかな弓部大動脈瘤に対して、ステントグラフトでの治療が可能になった。
それが、
Debranch TEVAR(Thoracic Endovascular Aneurysm Repair)
debranch(デブランチ)とは、枝を本来の位置から外すという意味
上行動動脈から腕頭動脈を超えた所をZone0
腕頭動脈分岐部から左総頸動脈を超えた所をZone1
左総頸動脈分岐部から左鎖骨下動脈を超えた所をZone2
というように大動脈をZone4までzoningし、
ステントグラフトを留置した際に、ステントグラフトでつぶしてしまう主要3血管のいずれかを別の人工血管でバイパスをするという、透視下処置(ステントグラフト)と外科処置(バイパス術)をmixさせたハイブリッド手術である。
遠位弓部大動脈瘤で一番遠位の「左鎖骨下動脈」だけがステントグラフトにかかってしまう場合は、1本だけバイパス術をして他の血管か「左鎖骨下動脈」に血液を流してあげれば良いし、
一番近位の「腕頭動脈」までステントグラフトを置かないといけないような大動脈瘤には、腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈全ての血管に、バイパス術を要するため、人工血管は3本必要となる。
バイパス術で使用する人工血管の数の違いで、
1本なら、1 debranch
2本なら、2 debranch
3本なら、3 debranch(total debranch)
という。
ただ、ステントグラフトのもう一つの問題点として、『エンドリーク』というものがある。
エンドリークは、ステントグラフトの留置部位のずれや血管の形状などで、ステントグラフトから動脈瘤内へ血流が流入する現象を指す。
動脈瘤内への血流を防ぐために挿入するのだから、防げなければ意味が無い。
とくに3本もバイパス術が必要な大きな弓部大動脈瘤には、侵襲度やエンドリークの問題もあり人工血管置換術が選択されることが多く、この便利なdebranch法も1本か2本が良く行われている。
他にも数種類の治療法が行われているが、今回はざっくりdebranch TEVARのみ
one debranch TEVAR「通称ワンデブティーバー」